アマチュア通信

趣味と学校外学習を科学する

小林 (2017) ライフスタイルの社会学

1章と4章を.

教育,職業,収入における階層的地位グループによって,ライフスタイル領域ごとに階層格差はあるのか.その結果,階層的地位は,どのようにライフスタイルを規定するのか(p.10)

という問題の計量分析が行われている.例えば4章は「趣味」がテーマで,特に芸術文化消費におけるオムニボア(雑食)/ユニボア(偏食)の分析から,収入が高い人ほど様々な芸術文化を消費する(オムニボア)である,ゆえに「文化格差」があった,という回答がなされている.

 こういう結果を「格差」として提示するとき,それは「解消されるべきもの」「是正されるべきもの」であるという規範的な主張も含まれているように思うのだけど,「ライフスタイル格差」の場合,なぜそれを解消すべきなのか,どう主張を正当化したら良いのか分からなかった. 4章の冒頭では,

この章では,階層グループによって,人びとの「趣味」のもち方に偏りがないのかを分析する.趣味をもって豊かな時間を過ごせれば,ライフスタイルがより豊かになるだろう (p. 69)

という風に書いてあるけれど,「趣味をもって豊かな時間を過ごすこと」は,オムニボアだろうとユニボアだろうと可能である.ユニボアだって「趣味」をもっていることに変わりはないのだから.それゆえ,ライフスタイル格差があろうとなかろうと,趣味をもって豊かな時間を過ごし,ライフスタイルを豊かにすることはできると思う.じゃあ,ライフスタイル格差は無くすべきなのか.無くすべきなら,なぜか.

 マーケティング側の問題として,「ある社会階層の人たちがあまりコンサートに来てくれない」という結果があるから何らかの手段を講じるべき,ということなら分かりやすいのだが,ここでの問題はそれとは違う.個人的には「ライフスタイル格差を無くすべき」という主張を支える論理が見つけられたら面白いな,とは思っているけど,今すぐには思いつかない.

*分かりやすいのは,「ライフスタイル格差が存在することによって社会経済的な不平等が維持されてしまう」という文化資本―社会階層系の議論に乗っかることだけど,もうちょっとライフスタイルの領域の内部にとどめて議論する方向性はないのかしら,と思う.