アマチュア通信

趣味と学校外学習を科学する

感想:『ハーバードビジネスレビュー 12月号 特集:好奇心』

「興味」を研究する身として手に取らざるを得ない特集ですが,面白いです.社員が「好奇心」を発揮できると,新規事業に挑戦したり,多様な経験をしたりしてリーダーとしての能力を育くんでいく.その一方で,上司からしてみれば,好奇心のおもむくまま部下…

GitHub買収に海外新聞はどんな見出しをつけたか

MicrosoftによるGitHub買収に関して日本経済新聞が「設計図共有サイト」という表現を使ったことに噛みつく人がたくさん出た.その後は「開発者向け共有サイト」という表現も使われている. www.itmedia.co.jp 海外の新聞ではどんな見出しがつけられたのだろ…

文化活動の行く末は何か?

昨日,イギリスの文化政策を研究している後輩と食事をして,彼がやっている文化政策研究と僕がやっている学校外学習研究の視点の違いを整理してもらった.要約すると以下のようになる. 文化政策研究 学校外学習研究 目標 文化活動の行く末の提示 文化活動の…

Edu-Lab Meeting で発表をしました

2月27日に開催されたEdu-Lab Meeting「趣味」と学びを考える,で発表する機会をいただきました.博士論文に向けた「趣味を深める共同体とネットワーク:オーケストラと写真の比較調査から」というお話をさせてもらい,多くのご意見をいただきました.ありが…

大学教員は「レッスンプロ」だと思う

1)大学教員は余暇に研究をする 「あなたにとって研究とは何ですか?」と尋ねられたら、「趣味です」と答える。好きでやっていることだけど、それで経済効果が生まれるような研究テーマではないし、それで良いと思っている。 将来のキャリアの選択肢にはも…

領域固有の認知を知るための文献リスト

認知心理学,特に熟達研究では,認知の領域固有性(domain specificity)は鍵概念である.チェスの熟達者は,チェスに関して体制化された知識を特定の条件――例えば駒の配置――に応じて活用することができる.だが,その知識はあくまでチェスという領域におい…

#遊びの哲学 に参加して――遊びのなかの自由と自律

木村洋平さんが主宰する哲学カフェが「遊び」をテーマにしていたので参加した. idea-writer.blogspot.jp 木村さんによる「遊び」概念の博物誌をうかがって面白かったのが,遊びには 自由――日常のルールからの脱出 自律――別世界のルールの構築 の両面がある…

【論文紹介】余暇 vs 勉強:教室でのゲームデザインの課題

Øygardslia, K. (2018) 'But this isn't school': exploring tensions in the intersection between school and leisure activities in classroom game design. Learning, Media, and Technology, DOI: https://doi.org/10.1080/17439884.2017.1421553 1)…

学習=「慣習的な人工物を再生産できるようになること」

1)学習とはどのような個人の変化を指すのか ksugiyama.hatenablog.com 前回の記事で「学習」とは「任意の2時点における特定の個人の変化を定式化したものである」という条件を述べたが,これは必要条件であって,「学習」を定義するには不十分だった.「…

過去を振り返ることでしか学習は認識できない

1)過去を振り返ることでしか学習は認識できない 日常生活や科学実践において「学習」という現象は次のような特徴をもっている. 任意の2時点における特定の個人の変化を定式化したもの ※これは必要条件であって必要十分条件ではない.例えば「5分前と比べ…

【本の感想】ピーパー (1965) 余暇と祝祭

まれびとハウスに来てくれた人が「アメリカでヒラリー・クリントンよりバラク・オバマの人気があるのは leisure の姿が見えるから」という話を教えてくれた.オバマが余暇にバスケットボールをしたり家族と過ごしたりしているのはイメージがつくのに,クリン…

【本の感想】田中 (2017) 関係人口をつくる

「関係人口」という言葉をはじめて聞いたとき,なるほど!と膝を打った.移住してくる「定住人口」でもないし,つかの間に観光していく「交流人口」でもない.二拠点暮らしだろうと,地元の特産品を食べるだろうと,地域と何らかの形で定期的に関わる人びと…

2017年の振り返り

2018年になりましたが,昨年の振り返りです. 2017年に直面したこと a)データは偉大 自分で収集・分析したデータを持っていると,色んな場所で自分の関心について話せてすごい.年初に提出した修論をもとに,日本教育工学会研究会・全国大会や日本文化政策…

落合 (2017) 超AI時代の生存戦略

落合さんのような一流の研究者が、一般書のレベルでいろいろ思考を開陳してくれる状況は素直に楽しい。まれびとハウスに出入りしていただとか情報学環の先輩だとかで勝手に親近感をいだいているせいもある。 57ページに「ものごとには透明性と趣味性があって…

【論文紹介】遠藤・友田 (2000) 社会教育に対する文化行政からの問題提起について

梅棹忠夫は1970年代に「教育はチャージ・文化はディスチャージ」論を展開することで,文部省―教育委員会ラインの社会教育行政ではない,首長部局による文化行政に勢いをつけた.「あそびの世界」を支えるには,学校教育が大きなウェイトを占める教育委員会の…

レッシグ (2004) Fee Culture

インターネット時代において,著作権という制度は制作物を保護する機能に偏重していて,過去の制作物を活用した創造を疎外してしまっていると論じた本.著者はサイバー法の研究者にして活動家のレッシグ.創造性というのは蓄積されてきた文化を素材にして発…

学習/芸術制作と政策担当部局の分離

1)学習と芸術制作はひとつの活動の両側面である 学習科学は,学習と制作活動は統合されたものと考える.「つくることでまなぶ」というやつだ.サイバー法の Lessig が,J. S. Brown に言及しながらこういう表現をしていた.とても良い表現だと思う. 文化…

研究者もハッカーになろう

1)ハッカーの開発は互酬性で成り立つ Eric Raymond は,なぜハッカーたちがオープンソース・ソフトウェアが開発できるのかを,人類学の互酬性の概念を使って説明したことで有名.開発者は金銭ではなく名誉で報酬を得ているという彼の議論は,アマチュアに…

ばるぼら, さやわか (2017) 僕たちのインターネット史

僕たちのインターネット史 作者: ばるぼら,さやわか 出版社/メーカー: 亜紀書房 発売日: 2017/06/17 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (3件) を見る 日本でインターネットがどのようなものとして語られてきたのかを、前史として80年代…

「可能性の実現」の時代

20世紀は「実現可能性」の時代だったけど,21世紀は「可能性の実現」の時代になると思っている.結果が先にあってそれに至る過程の効率性で勝負するのではなくて,まだ明瞭に像を結んでいない結果を呼び込むことが求められる時代になるだろうと. そのために…

挑戦してます感

10分で伝えます!やってみて,自分の研究の「挑戦してます感」もっと出していきたいなと思った— ksugi (@vbear00) 2017年11月27日 アンケートで自分の話を面白いと書いてくださった人もいる一方で,もうちょっと元気がほしかったというコメントがあったり,…

1になりそうな0

むかし,イノベーションとか起業とかに興味のある人たちから,「0から1を生み出す」ということをよく聞いたものだった.いまそれを振り返ったときに,自分がやりたいことは「1になりそうな0」と「0のままの0」の違いは何か知ることや,「1になりそうな0」を…

学ぶことの意味を学ぶこと――なぜ「興味」を研究するのか

学習研究者のコミュニティの中で自分が「興味の広がり」や「興味の深まり」を研究テーマに設定していることの意味は何か,ということを常々考える。今のところの答えは,興味の広がりや興味の深まりは「学ぶことの意味を学ぶこと」だから,というものだ。 学…

御礼:ベネット, サヴィジほか (2009=2017) 文化・階級・卓越化

磯直樹さんより『文化・階級・卓越化』をご恵投いただきました。ありがとうございます。原著であるCulture, Class, Distinctionは,ブルデュー理論を批判的に継承しつつ,現代イギリスにおける文化的な嗜好や階級について調査したものです。多くの文献で引用…

Ryu and Heo (2017) Relationships between leisure activity types and well-being in older adults.

Ryu, J. and Heo, J. (2017) Relationships between leisure activity types and well-being in older adults. Leisure Studies, DOI: 10.1080/02614367.2017.1370007 余暇活動への参加が高齢者のウェルビーイングにポジティブな効果をもたらすことはよく知…

村上春樹 (1998) 使いみちのない風景

学会帰りの道すがら、松江にartos(http://www1.megaegg.ne.jp/~artos/about.html)という本屋がありそこで手にとった本。良いセレクトショップだなという店内の雰囲気と旅情があいまって自然とこの本になった。僕たちの記憶の中に断片的に残されている旅の…

学習環境:制度化のグラデーションとして

学習科学におけるフォーマル/ノンフォーマル/インフォーマル、in-school learning / out-of-school learning のような区別(*1)を、学習環境がいかに制度化されているのかという問いへの回答として、その回答のグラデーションとして捉え直したいと思って…

日本教育工学会全国大会で研究発表をしてきます

日本教育工学会(JSET)の全国大会が9月16日~18日に島根大学で開かれます.大会では以下のポスター発表をしてきます. P1p-35 杉山昂平・森玲奈・山内祐平「趣味を実践する学習環境における個人的興味と共同体の関係性――アマチュア・オーケストラを事例にし…

クラシックな研究をしたい

研究室夏合宿への参加、今年は助教の方々に研究デザインを聞くセッションがあって大変勉強になった。斬新なアイデアで教育システムを開発して新しい学びの世界をつくろうとする人がいれば、フィールドに飛び込んで現場の面白さを伝えようとする人がいて、め…

エンゲストローム(1987)拡張による学習――活動理論からのアプローチ

読むまでは本の性格がよく分かっていなかったが,読んでみてあくまで介入のためのマニフェストなんだなと納得した.活動システムの図が有名な割に,学説史的にどういう意義があるのかほぼ分からない本である.ただ翻訳においては原著から――「全体を読み通す…