文化活動の行く末は何か?
昨日,イギリスの文化政策を研究している後輩と食事をして,彼がやっている文化政策研究と僕がやっている学校外学習研究の視点の違いを整理してもらった.要約すると以下のようになる.
文化政策研究 | 学校外学習研究 | |
---|---|---|
目標 | 文化活動の行く末の提示 | 文化活動の行く末の提示 |
視点 | トップダウン | ボトムアップ |
方法 | 文化行政における理念の分析 | 文化活動における興味の分析 |
どちらの研究も,文化活動が社会環境の介在を受けながらどのように発展していくのかに関心がある.ただ,その関心を満たす視点と方法が違う.
トップダウンな理念
文化政策の場合,「文化活動の行く末」はあらかじめトップダウンに提示されている.日本の文化芸術基本法の前文では,「文化芸術とはこういうものだ」という理念があらかじめ規定されている.
文化芸術を創造し,享受し,文化的な環境の中で生きる喜びを見出すことは,人々の変わらない願いである。また,文化芸術は,人々の創造性をはぐくみ,その表現力を高めるとともに,人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供し,多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものであり,世界の平和に寄与するものである 文化芸術基本法
それゆえ,文化政策研究者の仕事は以下のようになる.
- ある文化政策において,なぜそのような理念が提示されるのか,その経緯を分析する
- その理念を達成するために,どんな政策・事業が必要なのかを分析する
ボトムアップな興味
学校外学習の場合,「文化活動の行く末」は実践者=学習者がボトムアップにつくりあげてく.それゆえ,文化芸術がどのようなものであるのかはあらかじめ規定されず,個々人の興味関心に左右される.
Is Interest-Driven Learning Right for Me?
それゆえ,学校外学習研究者の仕事は以下のようになる.
- ある文化活動の実践者は,活動においてどのような興味を持っているのかを分析する
- その興味が発展し,深まるために,どんな社会環境が必要なのかを分析する
抽象化するとやっていることは似ている(どちらも実践的・工学的な関心をもっている)が,出発点に「理念」を置くのか「興味」を置くのかで違いがある.どっちを分析したいのかは好みによるだろうし,上から攻めても下から攻めても,最終的に同じ地点で出会えるはずと思う.