学習環境:制度化のグラデーションとして
学習科学におけるフォーマル/ノンフォーマル/インフォーマル、in-school learning / out-of-school learning のような区別(*1)を、学習環境がいかに制度化されているのかという問いへの回答として、その回答のグラデーションとして捉え直したいと思っている。
こうした区別は今のところ実践的な問いを立てるために用いられている。学校内と学校外の学びをいかにつなげるのか、という問題は2016年9月の『認知科学』23巻3号で特集されているし、Brigid Barron と Philip Bellによる2015年の out-of-school learning に関するレビュー(*2)でも提示されている。あるいは、インフォーマルな学びをいかに認証・評価するのかという問いは、職業訓練としての成人教育の文脈でOECDも調査を行なっている(*3)。
フォーマル/インフォーマル、学校内/外という区別は明快だけれど、単純すぎて不便なきらいがある。趣味の研究は、ディシプリンの中では基本的にインフォーマル学習・学校外学習を対象にしているという位置どりをすることになるが、趣味の場でフォーマルな学習環境がないかと言われればそうでもない。訓練がカリキュラム化されているピアノ教室のような学習環境は、公教育ほどではないにせよフォーマル性が高い。学生オーケストラのような団体も、新入生への教授過程をある程度制度化しているところがある。趣味の学習環境にも、グラデーションのようにフォーマル性からインフォーマル性が存在しているのである。
こうした学習環境の特性をより粒度高く捉えるためにも、「学習環境がいかに制度化されているのか」という理論的な問いのもとに諸研究を位置づけなおすのが有効だと思う。そこでは、定型的な教授過程をもつことは学習環境にとってどのような意味をもつのか、教師がいること/いないことによって実践の様相はどのように変わるのか、といった、ある意味で教育の根源を問うような課題が引き出されていくだろう。Jean Lave に限定せずに人類学を掘っていくとよいかもしれない。
PBLのような学習を取り入れたり支援する学校も増えているけれど、学校のなかにはそれをフォーマル教育に組みこもうという気はなく、部活動やそのほかの趣味と同じカテゴリの活動に位置づけているところもある。学生がやりたいことをやるのだから余計な口出しはしませんというスタイルだ。アカデミックコモンズを設置する大学でもそういうところはあるだろう。新しい学習指導要領も「社会に開かれた教育課程」をキーワードにしている。こうした動向を受けつつ,学習環境がどれだけ制度化されているのかはかなりケースバイケースで捉えがたくなっているので、なおさら理論的な道具立てを鍛えたほうがよいのではないかな。
*1 例えば,教育工学選書Ⅱの第2巻『インフォーマル学習』にはフォーマル/ノンフォーマル/インフォーマルの区別が概観されている.
*2 Barron and Bell (2015) Learning environments in and out of school. は,Handbook of Educational Psychology の第3版に収録されている.
Handbook of Educational Psychology (Educational Psychology Handbook)
- 作者: Lyn Corno,Eric M. Anderman
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*3 『学習成果の評価と認証』にまとまっている.